がるの健忘録

エンジニアでゲーマーで講師で占い師なおいちゃんのブログです。

「行動ターゲットマーケティングがいやならオプトアウトすればいいじゃない」に見て取れる醜悪な嘘吐きっぷり

ものすごく端的には「自己情報コントロール権」とかいう類の発想が根っこにあります。
ん…ここが面白いかなぁ。


住基ネット最高裁判決(2)自己情報コントロール権の弊害を考慮
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080409/298454/

自由権的な権利とされた「個人に関する情報」を開示されない自由
 次に「個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する」というところを検討してみます。高裁判決は,自己情報コントロール権という言葉を使っていましたが,最高裁判決は自己情報コントロール権という言葉を使っていません。それ以外にも,高裁判決が自己情報コントロール権は「プライバシーの権利」として保護されていると表現しているのに対し,最高裁判決は「個人に関する情報」としてプライバシーという言葉を使用していません。
 その理由は明らかではありません。あるいは,最高裁判決では「プライバシー」という言葉を使用した場合の曖昧さを排除したかったのかもしれません。プライバシーという言葉を使用した方が,その曖昧さ故に,解釈によっては個人情報よりも狭い意味に限定することも可能でした。しかし,「個人に関する情報」としたことで,結果的にかなり広い範囲の情報が射程に入ってくることになるように思います(注3)。
-中略-
 プライバシー権については,従来このような消極的な権利であるという理解がされてきました。ですが最近,プライバシー権は,自己情報コントロール権(個人が自己に関する情報を自らコントロールできる積極的,請求権的な権利)の側面を含むという理解が学説上有力となりつつあり,本事件の高裁判決を含む下級審判決で自己情報コントロール権を認める判決が出てきています。

 自己情報コントロール権は,個人情報が行政機関によって集中的に管理されているという現代社会においては,個人が自己に関する情報を自らコントロールすることが必要になってきた,という認識に基づくものです。かかる認識は,まさしく住基ネットを含む行政機関(自治体を含む)が個人情報を多数蓄積している現状に合致していると言えるでしょう。


「法律的な観点からの是非」をここで語れるほど、法律に詳しいわけじゃないので、避けますが。
とりあえず「自分の関連情報は自分でコントロールしたい」というのは、おいちゃん的に、そんなに奇異な要求だとは思ってないです。
まぁ実際、多少の個人情報があれば「結構な悪さ」ができますし。…まぁ「近年できるようになった」んじゃなくて「できるできないは昔からできるんだけど、"できるんだよ"という事実が近年になって広く知れ渡った」んだと思ってますが。
…今可能か知りませんが、20年くらい前だと「他人に成りすまして"本物の"運転免許書の取得」とかできましたしねぇ B-p
そーゆー情報の「公開範囲や利用状況を、ある程度制御したい」ってのは、そんなに無理無茶な要求じゃないと思う。


閑話休題


本題に進みましょう。
とりあえず直接的にきっかけになったのはこちら。


ここ半年くらいの行動ターゲティング/行動ログ系の炎上まとめと今後の予想
http://d.hatena.ne.jp/mantol/20120326/1332720665


プロフィールも、いまひとつ見過ごせない感じになります。

某大手情報メディア企業で働く28歳。主にスマートフォンの新規事業の企画と開発が今の仕事。


あちこちで突っ込みの嵐になっているんだけど、少し考察をしてみたいのはこの部分。

行動ターゲティングOK/NGのラインはどこにあるんだろう?
炎上する場合、ユーザが許容する場合、そのラインはどの辺りにあるのだろうか?今のところ以下の2つがポイントな気がしています。

拒否したい場合に出来ることは当たり前。そのオプトアウト方法が明確かどうか
利用用途に納得感があるかどうか(本来のサービスの意図に沿っているかどうか)

端的にまとめると「納得感と、納得いかないケースのオプトアウト手段」を重要視しているんだろうなぁと見受けられます。
また

過去の歴史を紐解くまでもなく「技術的に可能なことは必ず実現する」はずです。個人情報の分析基盤(androidによる情報収集、cookieによる統合分析など含め)が発展して来ている昨今、「集めること」と「分析する」ことはどちらも高度に可能になって来ていて、後は個々人がどう受け入れるかだけの問題じゃないかなと。

というあたりで「どちらかというと、デメリットよりもメリットに目が行っている」んだろうなぁ、というのが見て取れます。


で…おいちゃんの見解。
まず「技術的に可能なことは必ず実現する」については。「実現する」と「実現させてよい」との間にある深い溝を考えちゃうなぁ、っと。
「禁止されている技術」なんてのはぶっちゃけ五万とあることをきっと知らないんだろうなぁ、としか思えない。
ちなみにおいちゃんの見解。「禁止している技術を"禁止している理由"」は、たぶん「中長期的にそろばん勘定があわないから」。


「できる」と「やってよい」と「適切」の間には、深い深い溝があるですだよ。


次に「利用用途に納得感があるかどうか」。
これについて微妙だなぁと思うのは「デメリットをちゃんと相手に"認識できるレベルで"伝えているかどうか」。
魔法少女になってよ」ではなくて「君の魂を抜いてソウルジェムに変えるから、君の肉体はゾンビと同じような状態になるよ。あと、いつかは穢れがたまって魔女になるしか道はない。そういう存在である魔法少女になってよ」と伝えなきゃいけない。
いくらきゅうべぇが「"魔法少女"という概念にはゾンビ化も魔女化も含まれているし、それが重要なことだとは僕は考えていないよ」と言っても、それは突っ込みどころ満載の対象にしかならない。
「デメリットを適切に、もれなく伝えたうえで」あれば、納得感を問うこと自体はよいと思う。
あとは「もれなく」の部分、かねぇ。「森羅万象を見据えて」ってのは人間には少々荷が重いけど、とはいえ「善管注意義務」という単語も世の中には存在するわけで。「知らなかったわからなかった」は、不勉強の言い訳にはならないと思う。


で…最悪なのが「オプトアウト」。
んと。2つの方向から「無理」だと、おいちゃんは思ってるです。


まず一つ目は「認識ハードルの高さ」。
カレログ」と「applog」が、ちょうど元Blogの記事の順番的にも上にあるし、説明がしやすそうなので。
「オプトアウトで」っていう人の頭の中にあるフローって、たぶん以下の流れだと思う。


・サービスの内容に対して「拒否したい」という感情が生まれる
・オプトアウト方法を調べる
・オプトアウトする


でも。おいちゃんは、上述は「違う」と思う。
おいちゃんが想起するフローは、こんな感じ。


・「あるサービス」によって、自分のプライバシー情報が流れている(とられている)ことを認識する
・その「サービス」の内容を知る
・自分のプライバシー情報が「どのように使われているか」を知る
・自分のプライバシー情報が「今後どのように使われてる可能性があるか」を、ある程度までの範囲でとはいえ予測予見する
・サービスの内容に対して「拒否したい」という感情が生まれる
・オプトアウト方法を調べる
・オプトアウトする


で。ぶっちゃけると、1番目の「認識」が、特に一般の人には「限りなく無茶なハードル」だと思う。
カレログは、少なくとも当初「バックグランド操作で行うから、どのタイミングで情報取得しているかは彼氏の端末では一切わかりません」とあるので。たぶん、普通の人が「認識できる」術はないんじゃないか、と思う。
applogは「Android端末情報とアプリの使用履歴などのリストを取得して定期的にサーバへ送信する」とあるけど、これも、一般人が「認識可能か?」と問われたら、おいちゃんは「否」って答えるなぁ。
「同意画面があった」のは知ってて、「株式会社ミログが取得し利用する情報は個人を特定できる情報ではありません。」って書かれているらしいんだけど。ここから「端末にインストールされているアプリケーションの情報や端末で起動されているアプリケーションの情報が送信されている」って、どやって理解するんだべさ?


この辺の「認識ハードルの高さ」を、知ってか知らずしてか、平気で踏んでくるその脳みそが理解できない。


もうひとつが「オプトアウトしたところで、オプトアウトするまでの情報は拡散して制御不能」ということ。
つまり、言葉を組み替えると「ばれたらしゃーないからそれ以上はやらないけど、ばれるまでは好き勝手やらしてもらいまっせ」と同意。


「制御不能」に関してもうちょいとだけ噛み砕くと。
「行動ターゲットマーケティング」って、そのまま「広告収益」につながる話だと思ってるんだけど(without 自社内完結型の流れ)。
そうすると「情報はどんどんcopy、拡散」していくです。


ん…簡単な実例。
Aさんがいます。行動ターゲットマーケティングによって、Aさんのドメインが「20代前半、台東区在住、職場は千代田区、ゲーマー、エロゲーマー、風俗通い週1回、漫画好き、スノボ好き、サーファー初心者」だったと仮定します。
とあるサイトBで「20代男性、ゲーマーかつエロゲーマーで都内在住の人に広告を打ってくれ」といってAさんがその広告を踏んだ場合。
サイトBとしては「Aさんは20代男性でゲーマーでエロゲーマーで都内在住」程度には、情報が把握できます。
これをある程度繰り返していけば、Aさんのプライバシーのうち、行動ターゲットマーケティングで把握されている情報の「ある程度まで」は、サイトBも握れることになります。


で。Aさんは行動ターゲットマーケティングに対して「オプトアウト」をしました。
まぁまぁこの辺は疑わずに「行動ターゲットマーケティングはちゃんとAさんの情報を消去した」と、仮に、最大限の善意をもって、仮定してみましょう。


質問:
Aさんの情報は「適切に」削除されましたか?


これが「自社内サービスのみで完結してる」なら、ある程度Yesかなぁとは思うのですだよ。
でも「他社サービスとつなげた」時点でアウト。「サイトBが握ってるAさんの情報」は、そのまま残り続けるですだよ。


…ちょっと考えればわかるはずの事なんだけど。
気づいてないんだか、気づいてなお踏みつけてるんだか。
気づいてないんなら「んな脳みそで仕事するのはやめたほうがいい」だろうし、踏みつけてるんなら「んな品性で仕事をするのはやめたほうがいい」と思う。


で…結局「なんでオプトアウトにしたいか」っていうと、理由は簡単で「認識ハードルの高さを前提に"ばれないように"やらかしたい」んでしょ? としか思えない。
オプトインだと「やらかすまえにばれちゃう」から。オプトアウトなら「少なくともばれるまで、運がよければずっと」ばれないですむから。


その辺の好例を、最近のネタからひとつ。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120308/229608/?rt=nocnt

買い物カゴの中身で妊娠を判定する
行動心理学で企業は「習慣」という金脈を生み出せるか
-中略-
 企業は消費者の「行動心理」を読み、新たな「習慣」を生み出す事が必須と言われている。それは、どこで買い物をするか、ウェブで何を見るか、朝起きてから何を食べるかまで多岐に渡る。
-中略-
ターゲットの統計学者は、独自のデータ分析によって、買い物カゴの内容から妊娠初期の女性も高い確率で特定することができるというのだ。
-中略-
 なぜ妊娠中の女性なのか。それは小売りにとって将来的に良い買い物客になる潜在性が高いからだ。
-中略-
 ターゲットの統計学に基づく分析の的中率は驚くほど高い。記事中にはあるエピソードが掲載されている。ミネアポリスにあるターゲット店舗に、高校生の娘を持つ父親が「娘にゆりかごのクーポンを送るとは、妊娠を勧めているのか」と怒鳴り込んできたという。その後マネージャーが謝罪の電話を入れると、逆に謝り始めたのは父親で「自分が知らない間に娘が臨月に迫っていた」と言うのだ。家族以上に、ターゲットは消費者のことを非常に良く分析していたのだ。
-中略-
 こうやってデータからより的確に妊娠初期の女性を突き止めることに成功したターゲットだが、消費者へのアプローチは非常に気を使っている。妊娠している女性にしてみれば、小売り店舗から赤ちゃん用品のディスカウントクーポンがいきなり送られてくれば気味が悪いものだ。
-中略-
 企業が消費者分析を行うことは合法だが、消費者に分析していることを気づかれれば気持ち悪がられて、もう二度と買い物をしてくれない事態になりかねない。そのためターゲットは妊婦と突き止めた女性に、さりげなく、全く関係のないディスカウントクーポンに紛れさせて、赤ちゃん用品のクーポンを露出していくのだ。

つまり「行動ターゲットマーケティングは、売る側としては有効なんだけど」「消費者的には気持ち悪いから」「分析していることをばれないようにしながらこっそりとやらかしましょう」という内容。


なんで初手に「もしあなたが妊娠したことが行動ターゲットマーケティングの分析でキャッチできたら、そのときに妊婦用の広告をあなたに流してもいいですか?」って聞かないんだろう?
やましいから? 断られるのがわかってるから? 気持ち悪がられるのがわかってるから?

「分析されて、どうなったら嬉しいか」に対する答えになるサービス、そういうのを作りたい。

「利便性」とか「ユーザの気持ちが」とか「よりすばらしいサービス」とか「相手もうれしいはず」とか、そーゆーおためごかしやめようよ。
「他人をないがしろにしてでも、自分の利益を確保したい」んでしょ?


「広告に対するオプトアウト」って単語を見ると、最近おいちゃんの目には「ばれるまでやらかします」としか見えないんだなぁ。
という状況に対する考察でした。


…「まともな品性と脳みそ持ってる」広告業者さんって、どれくらいいるんだろう?
本来的には「広告」ってとても大切だし、ユーザとしてもありがたいものだから、卑下したくないんだけど。
最近の「広告屋さん」をみていると、マジで「滅べ」としか思えないのよ orz