がるの健忘録

エンジニアでゲーマーで講師で占い師なおいちゃんのブログです。

プロローグ

序章
あたしは、日記を書こうと思う。
今までに起こった事を。そうして、これから起こる事を。
その中で思う様々を。


回想
あれは。おばあさまから初めて、魔力の手ほどきを受けた時だった。


「いつもお前や私が使っているこのお道具は。トゥーヴというのですよ」
トゥーヴ。
家のいたる所にあり、お食事の時に使うフォークやナイフよりもよくつかうお道具。
いろいろな形があるけれども。お人形がもつ杖のような小さな杖の形が多くて。


「さぁ。いつものように何気なくではなくて。今日は、ちゃんと魔力を意識して使ってみましょう」
あたしの中にあるほんの少しの魔力の流れに沿わせるように、あたしの魔力に合わせてたくさんの力を貸し与えてくれる、大切なお道具。


「自分の中にある魔力をゆっくりと喚起して…」
総ての人にとって、無くてはならないもの。


「その魔力をトゥーヴに乗せて、魔力を増加させるの」
おばあさまはいつも「どんなお道具にも魂がこもっているものなのですから、大切になさい」とおっしゃってた。


「その、増幅された魔力を使って、呪文を唱えてごらんなさい」
あたしは、トゥーヴが増幅してくれた魔力の上に呪文を乗せる。


「沈黙なる水よ 我が元に集え」
魔力は周囲の水気を集めて、一筋の水の流れを作る。水作成の呪文。…集中しすぎたものだから、思ったよりたくさんの水が出来てしまったのだけれども。


「あらあら、相変わらず魔力持ちさんね。周りが思った以上にびしょ濡れだわ」
おばあさまはそういって、笑いながら脱水の呪文をお唱えになった。
そうして、いつものように、おばあさまはおっしゃった。
「お道具は、あなたを手助けしてくれる大切なものよ。どんなお道具も、感謝の気持ちを忘れずに、大切に使って差し上げないとね。道具には魂が宿っているのだから」
もちろんどんなお道具も粗末には扱わなかったけれども。
あたしは、ほかのどんなお道具よりも、トゥーヴを使う時に、そう感じていた。
だから、おばあさまに、当然のように質問をした。
「ええ。でも、トゥーヴは、ほかのお道具と違って。本当に、本物の魂がこもっているんだと思うわ? だって、あたしや、おばあさまや、お父様や、お友達たちの中にあるものと全くおなじものがあるんですもの」


おばあさまの、一瞬の、逡巡の表情と。その後に見せてくださった、とても哀しげな笑みを。
その時のあたしは、ただ不思議な思いで見つめるのが精一杯だった。
あたしが覚えている限りでただ一度だけの、おばあさまの、とても不思議な表情。
それ以降も、おばあさまから色々と魔法を伝授いただいたのだけれども。
あたしが同じ質問を口にする事は、二度となかった。おばあさまのあの表情が…哀しみをたたえた目が、忘れられなくて。


…忘れたくて。